光明元年

雑感

千のナイフ

坂本龍一千のナイフ(Thousand Knives)のピアノバージョンが好きで最近めちゃ聞いている。原曲と打って変わって百貨店の春のバーゲンのCMソングになっていてもおかしくなさそうなトレンディーな雰囲気。春っぽい。キラキラ。

Thousand Knives - song and lyrics by Ryuichi Sakamoto | Spotify

最近、純粋に自分の喜びのためだけに音楽を聞いたりピアノを練習したりできている気がする。他者不在の閉じた楽しみ。

この前はじめて銀座蔦谷書店に行って、たまたま目にとまった「言葉の宇宙船:わたしたちの本のつくりかた」という本を立ち読みした。最初の扉がなくて、見返しを1枚めくると扉にあたるページの隅に小さくカート・ヴォネガットの「ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを」の一節が引用されていた。

こんにちは、赤ちゃん。地球へようこそ。この星は夏は暑くて、冬は寒い。この星はまんまるくて、濡れていて、人でいっぱいだ。なあ、赤ちゃん、きみたちがこの星で暮らせるのは、長く見積もっても、せいぜい百年ぐらいさ。ただ、ぼくの知っている規則が一つだけあるんだ、いいかい——なんてったって、親切でなきゃいけないよ

次のページは目次ではなく、この本を書くきっかけになった著者2人の往復書簡が掲載されている。そのあとに目次(というより各セクションの用紙や印刷仕様も含めた設計図のようなもの)。往復書簡のところは1ページごとにわざわざ改丁していて、3ページに文章があったらその裏の4ページは白で、文章の続きは5ページにある、というつくりになっていた。変なの!!と思ったけど手紙書くとき表裏両面に書かないもんね。

著者がどういう人なのかも知らなかったし、パラパラめくっただけじゃどういう内容なのかもよくわからなかったし、巷ではどう評価されているのか、どんな人がどんな言葉でおすすめしているのか、または誰にも読まれずに無視されているのかもわからない、もしかしたらかなり散漫で退屈な本かもしれない。それでもなにか今の自分が必要としていることや、視界の外の宇宙からやってくる一文のようなものがこの中にあるかもしれない、と思わせるようなところがあったので購入。造本の力を感じた。わかりやすい説明があるわけではないのに、否応なく手に取らせて離しがたくさせてしまう感じ。久しぶりに本を買うときにドキドキした。そうした本との用意されていない偶然の出会いのことをライブラリーエンジェルと言ったりするらしい。そういう本が読みたいし、書店のどこの棚に置けばいいのかわからないような本が作りたい。

会社の方針で造本や体裁を画一的に統一されるのはすごくいやだ。しかし、仕事のなかにやりたいことの落とし所を見つけようとしている心根がすでに負けている気がする。

ちなみに冒頭に引用されているヴォネガットの小説は新自由主義の台頭と格差の拡大、それによって人々の間に広まる不寛容…などをスラップスティックに描いたSFらしい。読んでないけど。