光明元年

雑感

いつか素晴らしい世界になるといいですね

村上春樹はTokyoFMで「村上radio」という不定期放送のラジオ番組を持っている。今年の10月は早稲田に村上春樹ライブラリーがオープンしたこともあって、毎朝5時から過去の番組を再放送していた。

ところで今うちで預かっている猫は毎朝決まって5時頃に腹を空かせて、ペット禁止のマンションの共用廊下まで響き渡る大声で鳴いて寝ている人間を起こして回る。黙らせるために餌をやって、ついでにradikoをつけると村上radioの時間、ということがよくあった。そのうち、タイムフリーで会社帰りにも聞くようになった。

ラジオで喋る村上春樹は、悪意のある人がする村上春樹のモノマネみたいな、いかにも村上春樹という喋り方をする。村上春樹はたぶん世間の一部で自分の文体や作風が揶揄の対象になっていることを知ってはいるが、そんなことは心底どうでもよく、毎日一人で淡々と小説を書き続けている自分とは関係がない世界のことだと承知しているから、堂々と村上春樹っぽい喋り方をするんだろう。

とある回でルイ・アームストロングの What a Wonderful Worldがかかったことがあった。あの滋味深い多幸感あふれる曲が終わったあとに、村上春樹は「いつか素晴らしい世界になるといいですね」(今は素晴らしい世界ではないけど)と言った。私は村上春樹のことがそんなに好きではないけど、あれはその日耳にした全ての言葉の中で唯一、私に向けられた私用の言葉だ、と思った。いつか素晴らしい世界になるといいですね。いつか素晴らしい世界にしたいですね。今は素晴らしい世界ではないけど。